敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?
「よし、PCのセットアップ完了! これで共有フォルダやシステムは閲覧できるようになったね」
「ふう、なんとか出来ました。ありがとうございます」
学は普段からパソコンを使っていたこともあって、タイピングや細かい設定などは少し教えれば何なく1人でこなせた。問題は、オフィスで使うような表計算ソフトなどに慣れていないことである。まあこれは少しずつ教えていけばマスターするであろう。
あとは、1にも2にも対人関係である。今の学は家の中での阿久津との会話であればもう問題無くできているレベルだと思う。だがこれからは上司や先輩や同僚、ゆくゆくは後輩と接していかなければならない。三友に入社したからには、多少は社内の窮屈なルールも覚えてもらおう。
「それじゃあ次は、社内規程について読んでみましょうか。2ページを開いて……」
「あの! 阿久津さん」
阿久津がノリノリでマニュアルに取り組み始めた時、学からストップがかかった。
「どうしたの、佐伯くん」
癖で「学くん」と言ってしまいそうなところをなんとか軌道修正して、阿久津が問う。学は少し困った顔をしながら言った。
「余計な心配だったらすみません。でも、さっきから阿久津さんはずっと僕に付きっきりで、その……阿久津さんの仕事が終わらなくなってしまったらどうしようって。教えてもらってる僕が気にする立場じゃないのは分かってるんですけど」
「ああ」
さっきから何だか落ち着かないと思ったら、そういうことか。
「心配させてごめんね。その辺はだいぶ事務仕事を少なくしてもらってるから大丈夫。佐伯くんが作業してる時なんかにパパッと終わるくらいのものだから」
「そうなんですか。それなら良かったです」
「気になるよね、分かる分かる。優しい子はみんなそうやって逆にこっちを気遣ってくれちゃうんだよね。私もまだまだだと思う」
「いえ、そんなことはないです。……阿久津さんも、新人の時はこうして先輩について教えてもらってたんですか?」
学のふとした一言に、阿久津は自分の脳内に新人時代の記憶が溢れんばかりに再生されるのを禁じ得なかった。
最近まで、ずっと思い出さないようにしていた記憶。
「ふう、なんとか出来ました。ありがとうございます」
学は普段からパソコンを使っていたこともあって、タイピングや細かい設定などは少し教えれば何なく1人でこなせた。問題は、オフィスで使うような表計算ソフトなどに慣れていないことである。まあこれは少しずつ教えていけばマスターするであろう。
あとは、1にも2にも対人関係である。今の学は家の中での阿久津との会話であればもう問題無くできているレベルだと思う。だがこれからは上司や先輩や同僚、ゆくゆくは後輩と接していかなければならない。三友に入社したからには、多少は社内の窮屈なルールも覚えてもらおう。
「それじゃあ次は、社内規程について読んでみましょうか。2ページを開いて……」
「あの! 阿久津さん」
阿久津がノリノリでマニュアルに取り組み始めた時、学からストップがかかった。
「どうしたの、佐伯くん」
癖で「学くん」と言ってしまいそうなところをなんとか軌道修正して、阿久津が問う。学は少し困った顔をしながら言った。
「余計な心配だったらすみません。でも、さっきから阿久津さんはずっと僕に付きっきりで、その……阿久津さんの仕事が終わらなくなってしまったらどうしようって。教えてもらってる僕が気にする立場じゃないのは分かってるんですけど」
「ああ」
さっきから何だか落ち着かないと思ったら、そういうことか。
「心配させてごめんね。その辺はだいぶ事務仕事を少なくしてもらってるから大丈夫。佐伯くんが作業してる時なんかにパパッと終わるくらいのものだから」
「そうなんですか。それなら良かったです」
「気になるよね、分かる分かる。優しい子はみんなそうやって逆にこっちを気遣ってくれちゃうんだよね。私もまだまだだと思う」
「いえ、そんなことはないです。……阿久津さんも、新人の時はこうして先輩について教えてもらってたんですか?」
学のふとした一言に、阿久津は自分の脳内に新人時代の記憶が溢れんばかりに再生されるのを禁じ得なかった。
最近まで、ずっと思い出さないようにしていた記憶。