人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
(何を言えばいいのかしら……。否定したいけれど、否定したら「魔法を使ってほしい」と言われてしまいそうだし……)

何を言うべきかわからず、ただ引き攣った笑みを浮かべることしかヴァイオレットはできない。偽物だとバレてしまった場合のことは、チャールズやイザベルはもちろん、家庭教師からも教えてもらえなかったためである。

イヴァンは何も話しかけないままヴァイオレットを見ており、それがヴァイオレットの中で気まずさと緊張を高めていた。互いに無言のまま流れる数分は、ヴァイオレットの中で数時間にも思えてしまう。

「失礼します」

アイリスがドアをノックし、また姿を見せた。その顔には戸惑いが見えたものの、口角は上がっている。屋敷の前でヴァイオレットを出迎えた時より、表情は穏やかだった。

(アイリスさん、本当はきっと素敵な笑顔をイヴァン様に向けているはずよね。私が来たせいで、何だか変な空気になってしまってる)

つい俯いてしまいそうになるヴァイオレットだったが、魔法家系の淑女は常に人から見られる生活をしているのだという家庭教師の言葉を思い出す。行動の一つで家の品格が疑われ、信頼を失ってしまうことも珍しくない世界である。

(私は、偽物とは言えどイザベル様としてここにいる。バレてしまっていてもきちんとしないと!)
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