両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 けれどその話は真っ赤な嘘で、父がお金を出したのは工場とは名ばかりのボロボロの廃屋だったらしい。
 話を持ち掛けてきた男はお金を受け取るなり姿を消し、父が手にしたのは赤字を抱えた工場の権利だけ。くわしくは聞いていないけれど、家や土地の売却を考えるほどの大きな損失だったらしい。
 そうやって何度も騙されてきたのに、反省をせずすぐに人を信じてしまう。そんな両親のせいで、顧問弁護士や税理士が絶望的な表情で頭を抱える様子を幼いころから見て来た私は、こんな大人になっちゃだめだと自分に言い聞かせてきた。
 もともと贅沢を好まない性格と両親を反面教師にして育ったかいあって、一般常識と庶民的感覚を身に着け、それなりにちゃんとした大人に育ったつもりだ。
 大学卒業後、『彩菜をまったく知らない会社に就職させるのは不安だ』という過保護な父の勧めで吉永自動車に入社し、広報部に配属され真面目に働いてきた。
 半年前に結婚し副社長の妻になったものの、周囲から特別扱いは受けていないしあくまでただの一社員だ。
「ご令嬢なんて言葉、私には似合わないですよ。ブランド物には興味がないし、贅沢したいとも思わないし、倹約大好きですし」
 たぶん同年代の女性たちよりお金を使っていないと思う。そう主張する私を見て、萌絵さんが苦笑いをする。
「彩菜ちゃんがお金を使っていなくても、まわりから貢がれているじゃない」
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