鏡と前世と夜桜の恋
団子を完食した雪美は立ち上がり " そろそろさくが終わる頃だ!" と、持ち帰りの団子を注文し蓮稀と団子屋を出た。
「まだ食べるのか?」
「これはさくと一緒に食べる分!」
今日もラッキーな日、また蓮稀に会えるなんて… 雪美は蓮稀と楽しそうに話しながら団子片手に政条家へ向かっていた。
「… なんで蓮稀といるんだよ!!」
政条家に向かう道中、少し早めに勉強を切り上げた咲夜は雪美を驚かせ、喜ばせてやろうと団子屋へ向かっていた。
前方から話し声… 蓮稀と雪美が話しながら歩いて来る。何で?俺が居ない間に?
ゆきは何でそんなに頬を赤くしたり楽しそうに蓮稀といる?
ものすごく怒っている咲夜。
雪美は咲夜が怒っている原因が分からずただただきょとんとしている… 何でさくはそんなに怒っているの?
「団子屋で蓮稀と会ったの!そろそろさくの勉強が終わる頃だから一緒に… 」
「事情なんてどうでも良い!なんで蓮稀と2人でいるのか聞いてるんだよ!!」
こんなに怒るさく今まで見た事がない…
どうしてそんなに怒っているの?驚きのあまり言葉を失った雪美は肩を落とししょんぼりしていた。
「答えろよ!!ゆき…」
「俺と居たら不満か?余裕がない男は見苦しいぞ咲夜、女に道端で怒るなんぞ場所を弁えろ」
蓮稀の冷静な一言に思わず黙り込む咲夜。
蓮稀の言う通りだ。こんな場所で…
原因は明白、嫉妬から八つ当たり。頭に血が上り自我を失い自分の気持ちを制御出来なかった… そんな自分が情けない。
ゆきを見ていると気持ちだけが焦る。
俺の女だって言いたいのに、俺の嫁になったのに、ゆきが目で追いかけているのはいつだって兄の蓮稀…
沈黙のまま行く宛なく歩く2人のあいだの空気は重く、足音だけが規則正しく響いていた。
お互い話すきっかけになる言葉をと内心探しているのに、口を開けば全てが壊れてしまうような気がしてただ歩くしかなく…
「さく、ごめんなさい... 」
そんな中、恐る恐る最初に沈黙を破ったのは雪美だった。
雪美自身は無自覚…
何故怒らせてしまったのか分からない… 何度思い返しても、いつ自分の行動が咲夜を傷付けてしまったのか、その瞬間を掴めずにいた。
「お前は俺の嫁になるんだよ!蓮稀なんかと一緒にいるな!」
「え?どうして?蓮稀はさくの兄上…」
「いいから!ダメと言ったらダメだ!」
「… もう、蓮稀とは関わらないでくれ」
いつもと違う咲夜の低い声… 理由を告げぬその言葉に、雪美の胸はざわめいた。
「どうして?なんで蓮稀と会ってはいけないの?」
答えのない問いに納得がいかない…
咲夜への苛立ち、反抗心から、雪美は手を伸ばそうとした相手の手を振り払った。