鏡と前世と夜桜の恋
-- 月日が流れ。

蓮稀と鈴香の祝言の話が進む中、父上と大喧嘩をした雪美は家を飛び出し今日も政条家の蔵に忍び込んでいた。





昼下がりの陽射しが土壁の隙間から細く差し込み、埃の粒が金色に舞う。蔵の中は静まり返り外は蝉の声だけが響いている。

「父上なんて大嫌い、分からず屋!」



膝を抱え蔵の隅で呟く雪美… やがて戸の向こうから咲夜の声がした。

「ゆーきー」

「なんでここに居ること分かったの!」

「ゆきの家に行ったら、喧嘩して飛び出したって聞いたからここかな?って… いつも居るから」

「だって…父上が、私の大切な髪飾りを壊して謝ってもくれないのよ!?」


「うんうん」

「お祖母様から貰った大切なものだったの。もう手に入らないのに… 」

咲夜は無言で落ち込む雪美を見つめ少しだけ目を伏せ " 形あるものはいつか壊れる… 待っておけ " そう言い残し、咲夜は1人で蔵から出て行った。

「…なによ」

壊れてしまうからこそ大切にしてたのに…


どうしてわかってくれないの?

雪美は膝に顔を埋めいつしか瞼が重くなり… そのまま眠ってしまった。

夢の中に光が差し込み瞼越しに感じた橙色の明かりで雪美は目を覚ました。

「…あれ、私、寝てたの?」

蔵の中は、昼の熱が残るまま夕方の風が流れ込んでいて夕陽が床の木目を金色に染めていた。

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