鏡と前世と夜桜の恋
咲夜と雪美は『8歳』の頃、蓮稀に紹介されて出会い仲良くなった。
食い意地は誰にも負けない、可愛いくて元気で負けず嫌いのお転婆少女。どこに行っても『さく、さく!』と、着いてくる雪美が可愛くて。咲夜、本人の要望で2人は幼少期から縁談の話しも出ていた。

「雪美雪美… お前の頭は雪美の事しか無いのか?」
「うるせえ!誰に何を言われようが俺はゆき以外興味がない。そもそも蓮稀が縁談を受ければ良かった話しだろ?それを俺に押し付けんな!!」
「俺が?笑わせてくれる… 不釣り合いも良いところ。それにお前の方が気に入られているそうでは無いか」
-- おすずは破談の話しに納得する訳もなくある男を婿養子にした。
男の名は『 藤川 』最年長でプライドも高くいつも周りの人間を見下し張り合い癖のある男。頭の中は常に異性の体と性への意識ばかり… この性格が仇となりおなごとの縁がない故、自分好みの淫らな官能小説を書き妄想するのが趣味の男。

藤川と政条家は古くからの付き合いだが、地主であり最大権力を持つ親の息子、蓮稀と咲夜の事を心底嫌っていた。
おすずは藤川にある提案をした、藤川の大好きな紫陽花が満開の満月の夜「共にあの兄弟を陥れよう」と。藤川は権力欲しさに案に乗る… 互いの目的を手に入れる為、2人は仮面夫婦となった。
蓮稀と咲夜、この2人を桜で例えると『昼桜』と『夜桜』まさに対照的な兄弟だった。長身で柔らかい中に儚さが見え隠れする蓮稀、同じく長身で闇の中に強さがあり時に可愛い所もある咲夜。
雪美、蓮稀、咲夜、この3人が出会ったのは、全員幼き幼少期の頃だった。

沢山の蓮が凛々しく咲き始める季節… 蓮池で泳ぐ鯉を見ながら雪美は密かに誰かを待っていた。
「…今日は来ないのかなぁ」

待っても待っても意中の待ち人は現れず、溜息を吐いた雪美は来た道を引き返そうと川の横を歩いていると、前方から大名行列のような雰囲気の列が歩いてきた。

「跪きな!金貸しの分際で!」
行列の中にいたおすずは雪美を見つけもの凄い剣幕で暴言を吐く。体の大きさと膨よかな体型は村1番、豊満過ぎる体格から醸し出す威圧感と存在感はべらぼうに強い。
その場に無理矢理座らされた雪美は頭を下げろと言わんばかりにおすずに頭を地面に押しつけられた。
雪美の家系は金貸し屋。
当時は金貸し屋と聞けば偏見から一線置かれる時代でもあり娘の雪美は、おすずに目の敵のように嫌われていた。
地面に頭を思いきり押し付けられもの凄く痛い… 雪美はおすずにされるがまま、何の抵抗も出来ず。
悔しい… なんで私がこの人にこんなことされなきゃならないの。