鏡と前世と夜桜の恋
性も尊厳もなにもかも踏みにじった証拠。

「咲夜さ〜ん❣️ねえ、咲夜さんってばぁ!!」

「黙れ陽菜!… 蓮稀、聞け 」

咲夜の声が届けたときには遅かった。

蓮稀は写真を握りつぶし破り捨て、そのまま闇へ飛び出すように去っていった。

「… 蓮稀!!」


追いかける咲夜の背を陽菜は
寂しげに見送る。

" あーあ。咲夜さんまで行っちゃったぁ " と呟き、落ちた写真を拾い上げ藤川に返した。

牢屋敷を飛び出した蓮稀の背は、まるで “ 燃え落ちる火の粉 ” のように揺れていた。

怒りだけではない
悲しみだけでもない

そのどちらにも名前が付けられない

破壊衝動に似た喪失が胸を裂く

廊下を出て、牢屋敷を出ても蓮稀の足は止まらない… 胸の奥で何かが軋んでいる。

鈴香の細い首。
乾いた血。
折れた腕。
暗闇に沈んだ瞳。

あれが、あれが…

自分が守ると誓った相手だったなどどうして認められよう… 次の瞬間、蓮稀は地面へ拳を叩きつけた。

拳からは血が滲み、皮が裂けそれでもまた叩く。

「俺が… 何をした…?」

声は震えていない、震えていないのがかえって恐ろしく感じる。

「全部従った… 逆らわなかった… 鈴香を守る為なら、どんな屈辱でも、どんな命令でも… 全部だ、全部、飲み込んだ…!」

目の奥が赤い光を帯び始め呼吸は浅い

なのに、脳のどこかが焼け落ちる。

(なぜ、鈴香は死んだ?)

怒りは静かに深まり、もう後戻りできない形へ変質していく… 壊れる音がしたのは、蓮稀の心か、世界か。

蓮稀はゆっくりと顔を上げる。目は、血を垂らす獣のように鋭く濁っていた。

「殺す… 」

囁きともつかぬ声。
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