私が一番近かったのに…
「俺だって、ちゃんと京都観光したいけど、幸奈とそういうことをするのも楽しみなんだ。
だからといって、身体だけが目当てなわけじゃないからな」

強く抱きしめられた。力が強すぎて、少し苦しかった。
私はその間ずっと、愁の腕の中で大人しくしていることしかできなかった。

「幸奈と一緒に居るだけで幸せなんだ。
だから、お前のことを離したくない…」

その言葉は彼女に言ってあげるべきだと思う。
セフレの私にかける言葉ではない。

「だから、俺が傷つけたのなら、ちゃんと謝るから、今だけは許してくれ。すまなかった…」

どうして、愁はこんなにも不安そうなのだろうか。この関係が壊れてしまうことを、恐れているみたいに感じた。
そういえば前に、彼女とは夜のことで上手くいっていないと言っていたのを、ぼんやりと思い出した。
そっか。私のことは性欲処理として必要な存在なんだ。
だから、偽りの愛でも、甘い言葉を囁くことができるんだ。

「怒ってないよ。愁の誠意は伝わったから、そろそろ離してくれると助かる」

そっと身体が離れていく。ようやく解放された。
本当は離れてほしくなかった。この人を私だけのモノにしたい。
あの女に触れてほしくない。もう誰にも渡したくはない。
でも、これはあくまで期間限定に過ぎない。
制限時間は刻々と迫っている。ゆっくりしている時間なんて私にはなかった。

「早く行こ?時間がいくらあっても、足りなくなっちゃう」

一刻も早く、このホテルから出たい。この状況を打破するためにも。
甘い雰囲気になればなるほど、心が苦しくなる。自分が彼女ではないという現実を、突きつけられるから。

「そうだな」

愁はきっと冗談半分で、私をからかうつもりで言ったのかもしれない。
それを冗談だと上手く交わすことができずに、真に受ける私が悪い。
でも、今だけはどうか…。外で堂々と腕を組んで、デートがしたいです。

「もう。早く〜。あんまり遅いと、先に行っちゃうよ?」

「ちょっと待って。今行く」

待ってなんていられない。
だって、急がないと時間が勿体ないから。

「仕方ないな。ほら、 早く行くよ?」

堂々と手を繋いで、街を歩き始めた。
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