私が一番近かったのに…
「大丈夫だよ。大丈夫だから、お願い……」

愁の腕を強く掴んだ。自分の想いを強く伝えるために。
無理して強がっているのではなく、本当にそう願っていると。

「ダメだ。自分をもっと大事にしろ。
今の俺は、優しくできる自信がない。幸奈を壊しちゃうかもしれないのに、それでもいいのか?」

壊してほしい。先輩のことも含めて、全部忘れさせて…。
今は愁の腕の中にいたい。あなたが欲しい。

「いいの。そうしてほしいから」

自分の中でとびっきり甘い声を出してみた。縋る以外、方法はなかった。
ここでもし、逃げたりでもしたら、もう二度とこんなチャンスは、訪れないような気がした。

「逃げるなら、今のうちだぞ?もう引き返せなくなるけど、それでもいいのか?」

初めての夜も、同じように確認された。きっと愁は、私の意思を尊重したいんだと思う。
自分本意にすることだってできるのに。愁はそれを好まない。
だからこそ、先輩と同じことをしないために、その都度、確認をしてくれるんだと思う。
本当に優しさの塊のような人で、人のために自分を犠牲にしてしまうところがある。たまにそこが心配でもあるが…。
愁には我慢なんてしてほしくない。時々で構わないから、自分の意思を通して欲しいと思う。
それに私はとっくの昔から、もう引き返せないことは覚悟していた。
だから、私の答えは一つだった。

「引き返せなくていい。私は今、愁と一つになりたい…」
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