私が一番近かったのに…


           ◇


「愁くん。ごめん、来ちゃった…」

愁に来るなと釘を刺されたのにも関わらず、久しぶりに彼女が訪れた。

「もう来るなってこの前、言ったはずだよな?なんでまた来たんだよ?」

明らかに愁がイラついているのが分かった。そりゃそうだ。来ないでくれと頼んだはずなのに、それでも懲りずにまた同じことをされたら、誰だってイライラすると思う。
バイトとはいえども、紛れもないこれはお仕事だ。真剣に汗水垂らして働いているというのに、遊び感覚で来られてしまえば、集中力も下がる。
真剣に働いているからこそ、軽い気持ちで遊びに来てほしくはない。
まだ商品を購入してくれた上で、軽く挨拶する程度ならまだしも、何も買わずに帰る上に、長時間も居座られるので、そんなところも含めて、愁は止めてほしいんだと思う。

「そんなに怒んなくてもよくない?だって愁くん、最近、

「それ以上は言うな。早く帰れ!」」

仕事中だというのに、あんな剣幕で怒る愁は初めて見た。
どうして、彼女は来たのだろうか。こんなことをすれば愁が怒ることなんて、目に見えているというのに。
私なら、愁の気持ちを分かってあげられるのに。ささっと別れて、私にすればいいのに。

「せっかく来たのに、その言い方は酷くない?」

店内には数人のお客様。そして、一緒に働いている同僚達がいる。
愁の怒鳴り声と彼女の声が店内に響き渡る。幸い店長は今日お休みなため、副店長が出勤しているが、副店長は今、休憩中だ。
副店長は大体、休憩中はタバコを吸っているため、店の外にいる。
裏口の所で吸っているため、店内の様子にはまだ気づいていないみたいだ。
静けさが店内に漂っていた。お客様も同僚達も、二人のことが気になって仕方がないといった様子だ。
このままでは、お店の空気が悪くなってしまうので、何か愁の手助けをしてみようと試みたが、ここで出しゃばると、却って自体が大きくなってしまう可能性もあるので、大人しく見守っていることにした。
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