私が一番近かったのに…
「あぁ。幸奈が俺のために、一生懸命何を作ろうかと悩んでくれていると思うだけで幸せだ」

私が何を作ろうか悩んでいる姿を想像するだけで、愁は幸せみたいだ。恥ずかしいので、想像するのをやめてほしいが…。
手料理なんて初めてのことだから、緊張するし、味の保証もできない。
もし、仮に私が愁の彼女だったら、いつか手料理を振る舞う姿を想像できたけど、彼女でもなんでもないのに、そんな機会が訪れることになるなんて、全く想像していなかった。

「大袈裟だよ。そもそもまともに作れるかどうかすら、怪しいし…」

私に足りないものは女子力。こういう時、堂々と自信を持って私に任せてと、言える女性になりたい。

「そんなに自分を卑下するな。幸奈はやればできると俺は信じてる。
それに、練習して上達したら、また作ってくれる機会があるって、信じてもいいんだよな?」

確かに私は先程、練習をしたら…とは言った。そういう意味で言ったわけではないが、そういう意味合いもないといえば嘘になる。
もう発言は取り消せない。また作る宣言をしてしまったようなもので。墓穴を掘ってしまっただけに過ぎなかった。

「…ごめん。それはもう忘れて」

愁が励ましてくれればくれるほど、心の中がモヤモヤしていく。
自信がない時の私は、とことん面倒くさい女だ。不安ばかりが勝ち、人の気持ちを無駄にしてしまう。
愁の気持ちに嘘偽りはない。もちろん、半分は作って欲しいという下心もあるとは思うが…。
人のまっすぐな想いに、素直に応えられない自分が悔しい。自信がほしい。料理さえできれば問題ないのに。

「幸奈は普段、料理をするのか?」

何の脈略もなく、唐突に質問された。さっきから断っているのに、察しが悪い。

「あんまり。インスタントがあるから基本、楽なものに頼らせてもらってます」

大学生の一人暮らしなんてそんなものだ。あとはバイト終わりに軽いものを買って帰る日々。
料理なんてまともにできない。目玉焼きを作れるぐらい。
料理をしているかどうかの確認をしてきたということは、殆ど料理をしたことがない人間の手料理を食べるのが、急に怖くなったのであろう。それでいい。ササッと諦めてもらい、早く話題を変えたい。
< 222 / 346 >

この作品をシェア

pagetop