私が一番近かったのに…
「そんなふうに言われたら、抱きたくなっちまうだろうが。決して我慢してるわけじゃないんだ。今夜はお前を抱くより、こうしていたい気分なんだよ」

最近、愁との情事は、どこかちょっぴり過激化していた。愁は心の中のどこかで、申し訳なく感じていたのかもしれない。
だからこそ、身体だけではなく、私のことを大切にしていると伝えたかったのであろう。本当に大切にされていると、たくさん実感させられる。
それでも、私は彼女には勝てない。悔しい。そう思っていた矢先に、ようやく私にもチャンスが訪れた。
今いかなければ、こんなチャンス、二度と訪れないかもしれない。訪れたチャンスを、絶対にモノにしたい。愁と恋人になるために…。

「さっきまでの威勢の良さは、どこにいっちゃったの?でも、分からなくはないかも。一緒に居るだけで幸せだなって感じるから」

初めて愁が家に来た時のことを思い出す。あの時もそうだった。同じ空間に一緒に居るだけで幸せで。胸がいっぱいだったことを、今でもよく覚えている。
まさかこんな関係になるとは、あの時、思いもしなかったが。

「それはさっきまでの気持ちで、今は違う。幸奈とこうして触れ合っているだけでも幸せなんだ。不思議な感覚に、自分でも戸惑っているくらいに」

手を握られた。優しく包み込むように。暖かい気持ちが胸に広がっていく。

「ただ手を繋いでいるだけなのに、ドキドキするんだよな。幸奈相手だと」


私は愁しか知らないけど、愁は私以外の誰かを知っていて。いつも誰かと比べられる。それは間違いなく彼女であろう。
比べられるのは苦しい。まだ心の中のどこかで、彼女のことを好きなのかなと思ってしまう。今は私と一緒に居るのに。彼女のことを考えないで。

「こんな感情、初めてだ。ドキドキが止まらない」

繋ぐ手と手から、お互いの緊張が伝わってくる。今までになかった、二人だけの時間。どう甘えたらいいのだろうか。このまま本当に何もしないつもりなのかな。
何度も自問自答してしまう。それでも答えは出せなかった。あとは流れに身を任せるしかなかった。
< 229 / 346 >

この作品をシェア

pagetop