私が一番近かったのに…

3章:あなたが好き

あの日以来、バイト終わりに身体を重ねることが増えた。それが私達の間で定番化していた。
最初の頃は何もせずに、一緒に過ごすだけの日もあった。
或いは最後まではせず、途中まですることもあった。
私も愁も、一緒に居られるだけで幸せだと感じていた。
そんなある日、いつも通りバイトを終え、一緒に帰ろうとしたタイミングで、愁の携帯が鳴った。その相手は彼女からで、バツが悪そうに、

「…ごめん」

…と一言謝る愁の顔が苦しそうで、私の胸は痛んだ。

「仕方ないよ。それじゃまたね」

私にはそう言うしかなかった。引き止めることなんてできなかった。だって私達は、セフレだから。

「幸奈、待って…、」

急に腕を掴まれ、私は驚いた。ってきり、ここで解散だとばかり思っていた。

「今日、幸奈ん家に行ってもいいか?」

「え?急にどうしたの?彼女との用事は大丈夫なの?」

「大丈夫だから、お前ん家に行っても構わないか?」

こんなに焦っている愁は初めて見た。
私には拒否する権利などなかった。

「いいよ。家に来る?」

その一言で安心したのか、愁は落ち着きを取り戻した。
それにしても、愁に何があったのだろうか。彼女と揉めてるのかな?
それとも彼女が今、愁の自宅の前まで来ているから、私と一緒に居るところを見られそうでマズイとか?

「わりーな。ありがとう」

敢えて事情は深く聞かないでおくことにした。
何となく愁が醸し出すオーラーから、これ以上は聞かないでくれというのを感じ取ったから。
私はあくまで友達が困っていたから、手を貸しただけ。とはいっても、ただの友達ではないが…。

セフレって回数を重ねていけばいくほどに、物みたいに扱われて、最終的に飽きられて捨てられる。そんなふうに思っていた。
しかし、そんなことは全くなく、まるで宝物にでも触れるかのように、愁は優しく私を抱いてくれた。
愁が私に優しくしてくれるのは、友達として大切な存在だからだと思う。
こうして今、私を引き止めたのも、ただの気まぐれでしかなくて。期待するだけ無駄だ。
愁はきっと彼女と別れないと思う。女の勘がそう囁いていた。
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