私が一番近かったのに…
それでも愁の傍に居たい。友達としてでもいいから…。

「彼女がさ、今、俺のことを疑ってるんだ」

「疑ってるって、どういうこと?」

「俺と幸奈が仕事中に仲良さそうに話している姿を見て、不安なんだってさ」

もし、自分の彼氏が他の女の子と仲良くしている姿を見たら、嫉妬と不安でおかしくなるに違いない。
どこか他人事みたいに話す愁に、違和感を感じた。
だって、まだ付き合ったばかりだというのに、彼女への配慮が欠けている。
自分のことではないが、少し悲しい気持ちになった。
私としては一緒に居られて嬉しいが、彼女の立場になってみたら、申し訳ない気持ちの方が大きかった。

「私と一緒に居ても大丈夫なの?」

「大丈夫だ。俺は今、幸奈と一緒に居たいから」

気がついたら、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。
手から伝う温度が熱かった。それはまるで愁の気持ちとリンクしているかのように感じた。

「幸奈のことは大切な友達だって何回も言ってるんだけどな。
それなのに、一緒に居るな!とか、難しい話だよな」

それが愁にとって難しい話なのであれば、今はそれだけで充分だ。

「ありがとう。そう言ってくれて…」

こんな関係になってしまった今でも、これまでと何も変わらずに接してくれる愁が、やっぱり私は好きで。惚れた弱みには敵わないなと思った。

「そう思うのは当然のことだろう。幸奈は大切な友達なんだからさ」

そんなのもうとっくに分かっていたことだけど、改めてそう告げられると結構キツい…。

「分かってますよ。友達として充分、大切にされてますから。
それに、愁が彼女のことを大切に想っていることも知ってるし」

本当は辛いなんて言えない。この気持ちに蓋をすると決めたから。

「そうだな。結局、彼女のことが可愛いから別れる気はないんだけとな」

ズシンっ…と胸が痛む音がした。一番聞きたくない言葉を聞かされた。全てがどうでもよくなった。
ここから先のことは覚えていない。愁の話が全く耳に入ってこなかった。
やっぱり別れる気はないんだ。そっか。そうだよね。これもただの惚気にしか過ぎない。
自分に何度も言い聞かせるかのように、頭の中で復唱した。
虚しかった。自分だけが愁を好きだという事実が…。
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