三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
地下の駐車場に連れていかれると、高そうな車がたくさん並んでいて沙耶は若干ひいた。国産であれ外車であれ、高級と言われる部類の大きな車ばかりだ。
「親父のお古の車で申し訳ないけど」
そういう彼の車は海外製のコンパクトな車だった。
「かわいい」
わかりやすい高級外車じゃなくてなんだかほっとした。
「車検とか持ってやるから乗れって言われて。愛着があって手放したくないんだってさ」
尚仁は苦笑した。
沙耶を助手席に乗せて、尚仁は車を出す。
つい、渋滞していればいいのにと願ってしまった。
沙耶の気持ちを知らない尚仁は、ナビに従って車を順調に進めていく。
願いは届かず、道は渋滞することなどなかった。
彼女の住むアパートの前に車を止めて、尚仁は言う。
「今度はドライブでもどう?」
沙耶はとっさに返事に迷う。
その言葉は純粋にうれしい。だけど、彼はあくまで友達として、なのだろう。
「言っておくけど、誰でも部屋に呼ぶわけじゃないよ。君だけ特別なんだ」
「そ、そういうこと気軽に言わないほうがいいよ」
「気軽じゃないよ」
尚仁はにこやかに沙耶をまっすぐに見て言うから、思わず目をそらした。
「手をだして」
沙耶がおずおずと手を出すと、尚仁はポケットから鍵を出して沙耶に渡す。
「俺の部屋の鍵」
「え、でも……」
「俺のいないときにシッターに来てもらわうわけだから。鍵、必要でしょ」
「そ、そうだね」
男性の一人暮らしの部屋の合鍵を持つなんて初めてだ。どきどきと鍵を見つめる。
「エントランスのセキュリティーの解除にもこの鍵を使うからね」
「そうだった」
いっけん普通の鍵なのに、どこにそういう仕組みが入っているのか、沙耶にはわからなかった。
「鍵を渡すなんて、君にだけだから」
重ねられた言葉に、沙耶の顔が熱くなる。
「えっと、じゃあ、またね……」
いたたまれない気持ちになって、車を降りた。
「また連絡するから」
尚仁はそう言い置いて車で走り去った。
テールランプが見えなくなるまで、沙耶はずっとその場に佇んで見送っていた。
重なった尚仁の唇の感触が消えない。
心臓がどきどきして、おさまりそうになかった。