三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~



 翌日にはなぜか尚仁から彼の家の近くの求人が送られて来た。
 そのほうがペットシッターとして働くのには都合がいいでしょ、と彼はメッセージを添えていた。
 そうかもしれないけど、と沙耶は戸惑う。
 電車で通うにしても1本で行けるから、不都合は確かにない。
 バイトにしてもあちらのほうが時給が高い。

 就職活動を優先で週3回、スフィンクスの様子を見に行くことになっていた。給料はネットで見たペットシッターの料金を参考に決められ、別途交通費支給となっていた。時間は特に指定されていない。こんないいかげんな約束で大丈夫なのかと心配になるほどだ。
 それでも猫に関われる思うと心が浮き立つ。

 ついでに部屋の掃除とか、した方がいいのかな。
 勝手に触られるのが嫌な人もいるし、どうなのかな。
 ごはんは……もしかしたら尚くんのほうが作るの上手だったりして。

 初日をいつにしようかと相談したら、さっそく月曜日から来てほしいと言われた。
 張り切って行ったが、猫は警戒して出て来てくれなかった。
 猫トイレは全自動のタイプで手入れの仕方を聞いてなかったからこれの対応もできなかった。あとでまた聞かなくては、と沙耶は事前準備の足りなさを反省した。

 沙耶のいるときに宅配が来たら受け取って置いてほしいとも頼まれた。
 水曜日に行くと、宅配が来て受け取った。先日注文した猫グッズの数々だった。
 彼はそれを喜んでくれて、今後は沙耶のいる日に宅配を頼んでもいいか、と聞かれた。もちろん、と了承すると、また彼は喜んだ。

 猫とはじわじわと距離が縮まっていった。
 尚仁とはあれ以来会えなかった。が、メッセージのやりとりだけで心がはずんだ。シッターとして行くたびに報告して、彼からは感謝とともに雑談をふられた。彼の多忙さを気遣いながら、沙耶はやはりうれしくて返事をしていた。

 ただ、肝心の猫の世話がきちんとできていないのが気になった。
 いつも部屋は清潔に保たれ、毛がないからブラッシングの必要もない。自動給餌器があるから餌をあげる必要もない。一時間ほど猫と過ごして帰るだけだった。こんなのペットシッターとは言えない、と沙耶は尚仁に正直に言った。

「猫の世話、私がやらなくても完璧じゃない?」
「そんなことないよ。君がきてくれるだけで心強いし、クーも君が来た日はご機嫌だよ」
 猫が話せるわけもないだろうに、尚仁はそう返してくる。

 クレオパトラが慣れるに従い、彼女の体を拭いてあげたし、爪切りもした。お風呂にも入れた。やっとお世話ができているように思えて、ほっとした。
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