三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 上品なホワイトグレーの椅子に重厚な濃茶のテーブルがあり、それを囲むのは上質のスーツを着た男性や着飾った女性。
 ペットキャリーを持つ地味な服装の沙耶はかなり周囲から浮いていた。

 尚仁はテラス席にいて、沙耶を見つけると手を振って合図した。
 沙耶がそちらに行くと、すでに1人の女性が同席していた。
 40代だろうか。しっとりと美しく、目は活力にあふれていた。黒髪はショートボブでワンレングス。メリハリのある体を強調するような黒いワンピースで、ブランドロゴの入った大判のショールを羽織っている。赤い口紅が印象的だった。女性として満開に咲き誇っている様を全身で表しているようだった。
 沙耶は特売のコートにデニムに薄化粧だ。その差が恥ずかしくなる。と同時に、女性をどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。つい最近のはずだ。

 テーブルの傍に行くと、尚仁は立ち上がって沙耶を抱きしめた。
「来てくれてありがとう」
「尚くん!?」
 驚く沙耶に、尚仁は小声でささやく。
「しばらく俺に合わせて」
 沙耶が頷くと、尚仁は体を離して席を勧めた。座って、足元の影のある位置にキャリーを置く。日差しで熱がこもらないように。
 店員が来たのでコーヒーを注文した。

「へえ、この子が恋人なの?」
 値踏みするように女が視線を向けてくる。圧に耐えられず、目をそらした。
「今は一緒に暮らしてる。だからすぐに連れて来てもらえた」
 なにを言ってるの、と唖然として尚仁を見ると、ごめん、と目で合図を返された。

「新進気鋭のエネルギー会社の社長の恋人にしては地味ね」
「社長……?」
 初耳だった。今まで平社員のように沙耶には言っていたのに。
 唖然として尚仁を見るが、彼はなにも言わない。
 確かに、と沙耶は思う。あの部屋は平社員が住むには上質すぎる気がした。駐車場に停まっていた車も高級車ばかりだった。

「スフィンクスを見たいって話だったよね?」
 尚仁が言うと、そうね、と女は口の端だけで笑った。目だけが沙耶を狙うようにぎらついている。

「ここからだとよく見えないわ。出していただける?」
 沙耶は戸惑う。普通はペットを自由にはさせられないはずだ。どこにもペットOKとは書かれていない。キャリーなら見逃してもらえても、出すとなると話は別だ。
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