三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
尚仁からはその日のことについて特に説明はなかった。
急にごめん、助かったありがとう、とだけ言われた。
なんとなく沙耶も聞きづらくてそのことには触れなかった。
あの会社はやめたほうがいいよ。
彼はそう伝えてきたが、理由は教えてくれなかった。
断る理由が思いつかなかったし、とにかく仕事を決めなくてはならない。
迷ううちにも時間は過ぎていく。
そうして翌日、沙耶は結局スーツを着てヤナイ証券に面接に行った。
面接官は2人、うち1人はあの女社長だった。
広い会議室の一角での面談形式の面接だ。
どうなるかと緊張したが、面接自体はスムーズに進んだ。失敗もなかったが手応えもない。
落選だな、と思いながら面接を終える。残念な気持ちより、安堵のほうが大きかった。
だが、収入源が手に入らないのは痛手だ。もう実家に帰る決心をしたほうがいいかもしれない。
尚仁に気軽に会えなくなるのは残念だが、以前とは違う。ちゃんと連絡はとれる。だからきっと大丈夫。
そう思って席を立とうとしたときだった。
「2人で話をしたいのだけど」
真里奈が言い、社員が席をはずした。
沙耶の中に面接とは別の緊張が沸いた。
そもそも事務員の面接に社長が出て来るものだろうか。
今日の真里奈はスーツ姿だったが、妖艶さはあいかわらずだった。
大きなテーブルをはさんで向かい合っているのだが、その迫力は薄れることがない。