三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「尚仁とはどういう関係なの?」
 真里奈の目は油断なく沙耶を見ている。空調は温かい風を吹かせているのに、背筋を冷たいものが走った。
 あのとき、尚仁は沙耶と恋人で一緒に住んでいる、と言った。まだその話に合わせたほうがいいのだろうか。どうしてこの人は彼を呼び捨てにするのだろうか。

「合鍵をもらうような関係です」
 かろうじてそう答えた。
 嘘は言ってない。面接のとき以上に心臓がどきどきした。

「まるで恋人みたい」
 真里奈は微笑した。が、目は笑っていない。獲物を狙う蛇のように沙耶を見据える。この程度の回答では許してもらえそうにない。
「本当は違うわよね」
 問いではなく断定だった。
「あなた、ただのペットシッターでしょ」
 沙耶は答えられずにうつむいた。

 どうして彼女はこんなことを聞いてくるのだろう。
「隠さなくていいのよ。私、彼とはつきあってるの」
 沙耶が愕然と真里奈を見ると、彼女は嫣然と笑みを返した。
 ゆったりと足を組み、手を机の前で重ねる。真っ赤なネイルに小さなストーンがきらめき、彼女の女性としての自信を見た気がした。その薬指には指輪があった。

「ちょっと前にケンカしてしまったの。そしたら急に恋人ができたとか言い出して、驚いたわ。なんのことはない、あてつけるための偽装の恋人だったのね」
 女の笑みはどこまでも余裕を見せていた。
 沙耶はじっと彼女の薬指を見つめる。プラチナ製のように見えた。中心には一粒のダイヤモンドが光っている。
 普通に考えればこれは……。

「気づいた? そうよ、私はもう結婚してるの。だけど彼と愛し合ってるの」
 左手を掲げ、沙耶に見せつけて女は言う。赤く塗られた唇が笑いの形に吊り上がっている。
 そんな、と沙耶は喉まで出かかった。が、声にはならなかった。
 ただ愕然としたまま、勝利を確信した真里奈の顔を見つめる。

「カモフラージュのためにも、そのまま恋人の振りを続けてもらおうかしら。それとも別れてもらった方がいいかしら」
 沙耶はぎゅっと拳を握りしめ、再びうつむいた。
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