三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 沙耶は心がいっきに冷えていくのを感じた。
「尚くんがそんなことをする人だとは思わなかった」
「待って」

 沙耶はそれ以上聞きたくなくて通話を切った。そのまま彼の着信を拒否の設定にする。
 あふれそうになる涙をこらえて、クレオパトラを抱きしめた。
「一緒に行こうか」
 沙耶が言うと、クレオパトラは、にゃー、と答えた。

***

 尚仁は無理矢理に仕事を切り上げて家に帰った。
 いつもなら出迎えてくれるクレオパトラはおらず、「連れて行きます」と書かれたメモが残されていた。キャリーの代金のつもりか、1万円が一緒に置かれていた。

「あの女……!」
 尚仁はバン! とテーブルを叩いた。
「許さない」
 彼の目は怒りに燃えていた。

 予定を早めて、今日中にケリをつけてやる。
 彼はすぐさま会社に引き返した。

***

 沙耶はクレオパトラを自室に連れ帰ってすぐ、猫のトイレやごはんやその他必要なものを買いに行った。
 管理会社にも連絡して、しばらくの間だけ猫を保護する許可をもらった。

 キャリーから出したとたん、クレオパトラは部屋の隅へ走って行き、かたまって動かなかった。
 近くに猫用のハウスを置いて、沙耶は部屋を見回す。

 尚仁の部屋は常に片付いていて余分なものがなかった。
 猫が乗っても大丈夫なように棚の上になにものっていなかったし、小物がちらばっていることもなかった。
 ひきかえ沙耶の部屋は物が散乱している。

 片づけなくちゃ。
 沙耶は必死に片づけを始めた。
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