三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「勝手に連れ出すって、人間だったら誘拐じゃん。猫は法律では物扱いだから窃盗ね。虐待されてる犬を助けるために連れ出して窃盗罪で捕まったっていうニュースをみたことあるよ」
 雪絵に言われて、沙耶はたじろぐ。

「でも」
「きっかけがなんであれ、ちゃんと愛して育ててるならいいんじゃないの?」
 その通りかもしれない。だが。

「本当に愛して心配してるなら、もっと必死になって探すんじゃないの? 電話も来ないし」
「あなたが着信拒否してるのに、どうやって?」
「家だって知ってるのに……」
「女の1人暮らしの家に押しかけるの?」
「だけど……」

「警察に盗難届けだっけ? 出されてもいいの? 手当たりしだい連絡して『沙耶に猫を盗まれた、なにか知りませんか』って聞いて回られてもいいの?」
「そんなこと……」
 考えもしなかった。女性の気を引くために飼い始めるような人がそんな必死になって探すとも思えなかった。

「よっぽど彼のほうが気を使ってくれてるよ。私には猫のことなにも言わなかったよ? ただあなたと連絡がとれなくて心配だって、そればっかり。詳しくは聞いても教えてくれなかったもん」
 沙耶はもう反論できなかった。自分の短気と浅慮が恥ずかしくなった。
 クレオパトラは文句も言わず、ペットハウスで香箱を作っている。まるで本当のスフィンクスのような姿勢だ。

「わかったら、ちゃんと連絡しなよ。すぐに!」
 そう言って雪絵は電話を切った。
 ため息をついてスマホを見る。

 と、公衆電話から着信があった。
 尚仁からかもしれない、と通話に指を動かした瞬間、
「沙耶!? クーは!?」
 叫ぶような彼の声が聞こえた。

「尚くん、ごめん」
 沙耶はしょんぼりと謝る。
「今どこ!?」
「家にいる」
「すぐ行く!」
 電話はそれだけで切れた。
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