三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 沙耶はため息をついた。
「ごめんね、あなたのご主人様、すぐに来るから」
 クレオパトラに声をかけると、彼女はじっと沙耶を見た。
 沙耶は部屋着から着替え、クレオパトラをキャリーに入れた。

 車の音がしたら、すぐにコートを羽織って外に出た。部屋に鍵をかけて道路まで出て行く。
 急いで降りた尚仁は、沙耶が持つキャリーを見てすぐにしゃがむ。
「クー?」
 にゃー、とクレオパトラは返事をした。
 ほっと息をついてから、尚仁は立ち上がり、沙耶をにらむ。

「なんでこんなことを?」
「ごめん」
「一緒に来てくれる?」
 沙耶は頷いた。
 尚仁の車に乗り、彼の部屋に向かった。

 道中は2人とも無言だった。
 沙耶は居心地悪くずっと窓の外を見ていた。
 部屋につくと、彼はすぐにクレオパトラをキャリーから出した。
 彼女は喜んでキャットタワーにのぼっていく。

「あの女になにか言われたんだろうけど」
 尚仁はコーヒーを淹れながら、沙耶に言う。あの女とは、つまり真里奈だ。
「なんで俺よりあの女を信じたの? 俺、そんなに信用ないの?」
 う、と沙耶は言葉につまる。

「人は悪い言葉のほうを信じやすいって聞いたことはあるけど、もっと俺を信じてもらいたかったな」
「ほんと、ごめん……。不倫相手の気をひくために猫を飼うって、許せなくなっちゃって」
 しょんぼりとうなだれる沙耶を見て、尚仁はため息のように苦笑した。

「変わらないな、正義感が強いの」
 沙耶はなにも答えられない。
「もう誤解だってわかってくれたんだね?」
「こんなにちゃんと飼育環境を整えてるのにそんなわけないって、あとで気が付いた」
「あとで、なんだ。部屋見てるのに」
 からかうように、あきれたように尚仁が言う。

「ペットシッターまで雇ったのに」
 言われて、さらに沙耶は落ち込む。まさにそのペットシッターが自分だ。
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