三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「ごめん……」
「わかってくれたし、いいよ。俺も説明が足りなかった。座って」
 尚仁はソファに沙耶を促し、テーブルにコーヒーを並べた。沙耶の分には砂糖とミルクが添えられている。

 沙耶が座ると、すぐ横に尚仁が並んだ。
「あの女社長に、前から言い寄られていた」
 沙耶が彼見ると、困ったような微笑を浮かべていた。

「ずっと断っていた。でもかなりしつこくてね。親父の会社の株をそれなりに持っているし、公開されてない俺の会社の株までなぜか持っていたから無碍にもしづらくて。非公開株を持っているあたりが本当におかしい。なにか不正をやっているはずだ。その対策にしばらく忙しくしていた」
「そうだったんだ……」

「時間稼ぎに恋人が出来たって言ったら見せろってうるさくて。実物を見ないと信じないって。それであのとき君に来てもらったんだ。ごめん」
「言ってくれたら良かったのに」
「言いづらくて。でも、手をうってから話そうとは思っていたんだよ」
 尚仁がコーヒーを飲む。沙耶もミルクを入れて一口飲んだ。

「細かい説明は省くけど、今日ようやくその対応が完了した」
 尚仁の自社の株に関しては役員の1人に金を積んで手に入れていたことがわかった。また、真里奈があちこちの会社に盗聴器を設置して未公開情報を得てインサイダー取引をしていたこともわかった。それらを証拠とともに証券取引等監視委員会に通報した。委員会は調査後に検察に告発し、刑事事件になるだろう。

「あの人があなたと不倫してるって言われて……あんまり自信まんまんだったから、信じちゃった」
「それなら君に合鍵を渡さないよ」
「それもそうか」
 はは、と沙耶は情けない自分を笑ってまたコーヒーを飲んだ。妙に苦みが舌に残った。

「俺は君だから鍵を渡したんだ」
「そんな言い方、誤解しちゃうよ」
 苦く笑ってコーヒーカップをテーブルに戻す。

「どんな誤解?」
「どんなって……」
 沙耶は言い淀む。
 好きだって言われてるみたいじゃない、と、軽くは口にできなかった。
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