三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 彼のことを好きだから。
 そんな軽くは言えない。
「誤解じゃないよ」
 尚仁は沙耶を自分のほうに向かせた。

 沙耶の心臓がどきっと大きく震えた。
「昔から、君のことが好きだった」
 尚仁がまっすぐに見つめるから、沙耶はとっさに目をそらした。

 好きだったって言われた。過去形だ。だけど、まるで今でも好きみたいな言い方だ。
 そんなふうに言われたら、期待してしまう。
「連絡がとれなくなって、諦めていた。でもこうしてまた会えた。俺はもう君と離れたくない」
 心臓がどきどきと脈うつ。離れたくない、と頭の中で声がリフレインする。

「猫を飼いたかったというのは嘘じゃない。だが、女の気をひきたかったのかと言われて俺は否定できなかった」
 怪訝に思って沙耶が顔を上げると、尚仁と目があった。彼は微笑を浮かべたままだ。
「君の気をひきたかったから」
 沙耶は目をまたたかせた。

「同窓会で猫を飼ったと君に言ったら、きっとそのあとも会えると思って。動物アレルギーになってるなんて思いもしなかったし、結局君は欠席だったけど」
「本当に……?」
「信じてくれないの?」
「だって」
 だが、彼が本当にそう思っていたのだとしたら、自分はまんまと策にはまっていた。確かに、疑問に思ったことがあった。いろいろ調べていそうなのに沙耶に質問してくることを。

「俺は最初から恋人はいないって言ったよ。君が特別だ、とも言った」
「そう……だったね」
 てっきりからかわれているのだと思っていた。

「今後はこんなことのないように、ちゃんと俺の専属になって」
 専属って。どういう意味で言っているんだろう。微笑の奥の真意はどこにあるのだろう。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「けど?」

 なんて言ったらいいのかわからない。専属とはつまりつきあうということで合っているのか。沙耶はだけど、それを聞き返せない。違っていたときの衝撃が大きすぎるから。
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