天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「紗弓」
「はい。……ンッ」

 顔を上げた瞬間、キッチンの反対側から身を乗り出した嵐さんに不意打ちのキスをされる。

 甘くやわらかな感触に胸が熱くなるとともに、数日離れていた寂しさが今さらのように胸に押し寄せ、切ない気持ちになった。

「嵐さん……」

 唇を離した後も、至近距離で見つめ合ったままの彼に言う。

「ん?」
「こんなこと言って、困らせたらごめんなさい……」

 契約結婚だと言いながら、ステイ先で私の好物を買ってくれて、帰宅すれば本物の夫婦が交わすような口づけをくれる、その理由が知りたい。

 彼は気まぐれで女性を弄ぶような人じゃないと思うから、父や真路さんが話していたような、心に閉じ込めているなにかがあるなら教えてほしい。

「嵐さんが、自分のことを〝嫌な奴〟と表現する理由。あなたが話したくなるまで待つって、結婚する前は言いましたけど」

 こうして彼ときちんと向き合うと決めたのは自分だけれど、心臓がバクバクした。

 だけど、彼をよく知る父や真路さん、それに杏里さんが背中を押してくれた。

 本当の意味で嵐さんと夫婦になりたいのなら、幸せになりたいのなら、逃げてはダメだ。

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