かつて女の子だった人たちへ
「おでんやさん、慣れたぁ?」

唯に尋ねられ、芽里は保冷パックに入った練り物を取りだす。

「忘れてた。今日、唯と会うって言ったら持ってけって、社長が」

芽里の再就職に取引先を紹介してくれたので、唯と社長は知り合いだ。

「あ~、社長にありがとうって伝えて~」
「早めに食べてほしいから、明日の夕飯はおでんだね」

食べきれるかなあと唯はおでん種を見下ろしている。

「みんないい人で、毎日楽しいよ。お昼にまかないがあるのがすごく助かる」
「あそこ仲良しのおばちゃんばっかりだから、和気あいあいでしょ」
「うん。それに唯が私の事情を、社長と奥さんと娘さんに先に話してくれたおかげで、安心して働けてる」

芽里のフルネームは検索すればまだ出てきてしまう。一般の企業では引っかかるかもしれないと、唯はネット事情に疎そうな今の会社を紹介してくれた。それでも芽里は、唯に頼んで先に事情を話してもらった。
地下アイドルをめぐってトラブルになり、個人情報を晒されてしまったこと。一時的に風俗に勤めていたこと。
後々知られてトラブルになりたくなかった。

「社長たちが気にしないって言ってくれて、本当に救われた。恩返しの気持ちで頑張ってる」
「うん。それならよかった」

レイキと別れてもう半年になる。
あの日、『ミルkey』のライブに行かなかった芽里はそのまま唯に会いに行った。
唯にここ半年のすべてを告白し、散々泣いたら少し頭がすっきりした。
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