かつて女の子だった人たちへ
「推しを全力で推すのってある種の青春だったと思う」
「芽里?」
「大丈夫。もうあんなハマり方しない。身の丈に合わない金額をつぎ込まなきゃならない推しなら、推さないほうがいいってわかったもん。お金かけるのって最終的には自己満足だし」

芽里は少女たちの後ろ姿を眺めながらつぶやいた。

「推しは私を救ってくれた。昔から何度も。それは事実なの」

自分自身への言葉に思えた。今までの推したち全員に、芽里は感謝の気持ちがある。

「またいつか推しができたら、理想を押し付けず、私のペースで愛するよ」
「うん。それがいいかもね」

唯が芽里の肩に腕をまわしてくる。

「それに推し活以外にも楽しいことはたくさんある! まずは次の連休に温泉旅行しない?」
「温泉かあ。何年も行ってないかも」
「あと海外は? 私行きたいところが結構あるんだよね。まだ海外旅行経験ないんだけどさ」
「私もだ! 初心者はやっぱりハワイとかかな?」
「行きたいところでしょ。決めようよ」
「正社員になったらボーナス出してくれるって社長が言ってたから、それまで待ってぇ」

芽里と唯は肩を組んで笑いながら歩いた。
酔っ払いの女性ふたり組の大声は、週末の池袋ではありふれていて、とても平和な光景に見えた。


(了)
< 165 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop