かつて女の子だった人たちへ
幸せな結婚だと周囲は言い、雪奈自身もそう思った。
女優の夢は諦めたが、裕福な年上の男性に見初められ、恋に落ち結ばれた。

誰もが羨むホテルでの豪華な結婚式。ヨーロッパのリゾート地を一週間かけて回った新婚旅行。麻布のタワーマンションでの新婚生活。
ハウスクリーニングが定期的に入るので、家事の手間はさほどかからない。下手なりに一生懸命作った料理を俊夫が褒めてくれるので、雪奈はどんどん上達し、今は料理の腕もちょっとしたものだ。

唯一うまくいかないのが妊活だった。二十五歳で結婚し、自然妊娠を待ったが二年経っても妊娠には結びつかなかった。子どもは俊夫と千葉の実家で暮らしている義母の強い希望だった。
『俺がアラフォーだからかな』と責任を感じる夫に申し訳なく、食事や生活習慣に至るまで様々な方法を試した。もちろん病院にも夫婦で行った。これで駄目なら体外受精も視野に入れようというときに授かったのが絆だった。
二十八歳で念願のママ。
三年もかかってしまった。二十五歳で結婚したときは、都心部では『かなり若いママ』に分類されるだろうと思ったのに、二十八歳では『少し若めのママ』だ。そこは残念だったが、我が子が授かったのだからもう充分だ。

可愛い我が子と自慢の夫。
雪奈の人生はパーフェクトだった、昨晩までは。

「ううん、今までも怪しいことはあったわ」

元気に玄関を出ていったランドセルの後ろ姿を見送り、雪奈は真顔に戻って呟いた。
俊夫が今まで完全に潔白だったかと言えばわからない。怪しい点はいくつもあった。
帰りが遅い。仕事が忙しくてあまり家にいない。
この程度はまだしも、女性のいる店に行くのは仕事上よくあることのようだったし、そういった職業の女性から営業メッセージをもらうのも頻繁だった。
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