かつて女の子だった人たちへ
その晩、俊夫は19時には帰宅してきた。

「パパー!」

絆が喜んで飛びついて行き、俊夫も相好を崩して抱きとめる。21時に寝る絆が起きているうちに帰ってくるなんて稀だ。

「絆、今日は一緒に風呂に入ろうか」
「いいよ!」
「よーし、パパ、着替えてきちゃうから待っててくれ」

絆を下ろし、俊夫がこちらを見た。

「雪奈、これ」

俊夫が置いたのはブランドのショップカードだ。雪奈が若い頃から好んで使っているバッグや財布がこのブランドである。

「いつもの銀座の店、明日行ってきなよ」
「え?」
「『うちの奥さんに似合う服とバッグ、用意しておいて』ってスタッフに頼んであるからさ。好きなものを選んでおいでよ」

それは浮気の謝罪に好きなブランド品を買ってあげるということだろうか。

「そんなことを店員に頼んできたの?」
「VIPにはそのくらいしてくれるさ。大丈夫、大丈夫」

年に数回、数える程度しか行かない顧客がVIPとは。そこで雪奈は思う。おそらく俊夫は、雪奈以外の女性も散々連れて行っているのだろう。バッグに財布、雪奈と同じように買い与えて機嫌を取っているのだろう。

(愛人と同じ扱い……)

しかし、俊夫が謝罪の気持ちでこちらに気遣っている以上、推測だけで怒ることはできない。

「ありがとう。明日はママ友とランチの約束があるから、近いうちに行かせてもらおうかな」
「うん、そうしなよ。……さあ、絆。風呂に行くぞ!」

俊夫は陽気に絆とリビングを出て行った。

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