かつて女の子だった人たちへ
なんて嫌な人だろう。夫の家族だから大事にしたいと接しているが、ここまでひどいことを言われても尊重しなければいけないのだろうか。

「さあて、じゃあ私は行くわよ。今日はこのあとお友達と観劇で忙しいんだから」

義母はせかせかと立ち上がった。どうやら、雪奈に用事があったというのもついでだろう。玄関に向かう背中には汗染みができている。9月の陽気は義母にはまだ真夏に感じられるのかもしれない。

「絆ちゃんによろしくね」

雪奈に言葉を発させる間もなく、義母は出て行った。
義母は雪奈をいじめて苦しめたいわけではないのだ。その証拠に雪奈が傷ついている様子や怒っている様子には興味を示さない。
ただただ無神経に、言いたいことを言う人なのである。そして、自分を絶対的に正しいと思っていて譲らない。

「最低……」

気分が悪かった。あと二時間で絆が帰ってくる。それまでに笑顔に戻りたい。
絆にだけは笑顔で接したい。
イライラした気持ちをおさえたくて穏やかな音楽でも聴いてみようかとタブレットを手にした。動画サイトで環境音楽を探して聞いたが、怒りと苛立ちが収まらない。そして、憂鬱な気持ちが首をもたげてきた。
今夜も俊夫は早々帰ってくるだろう。絆が眠ったあと、雪奈に言うのだ。
『愛してるよ。今日は触れてもいい?』と。考えただけで怖気が走った。
愛していた夫にこんな気持ちを抱いてしまうのはいけないだろうか。俊夫を受け入れられない自分が悪いのだろうか。
義母の言う通りなどと思いたくないが、雪奈がふたり目を作ることに意欲的だったら俊夫は浮気をしなかった? いや、浮気発覚前は月数回行為に応じていた。完全にレスだったわけではない。それとも、そんな姿すら消極的で俊夫を寂しくさせていたのだろうか。

「私が悪いの……?」

タブレットの液晶を眺めたままダイニングチェアから動けない。
いや、このままこうしているのはよくない。夕飯の買い物にでも出かけよう。タブレットをシャットダウンしようと思って、ふとおすすめ欄に上がった動画に目がいった。
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