かつて女の子だった人たちへ
『さあ、胸に両手を当てて。目を閉じて、ゆっくり呼吸しましょう』

もちろん雪奈は言われた通り真面目にやるわけもなかった。椅子の背もたれに腕をかけ、どんなくだらないことをやるのだと見ているだけ。

『あたたかな力があなたのたなごころから胸に広がっていくのがわかりますか、表面から皮膚の中へ。そして心臓へ届くのです。心に癒しを届ける第一歩です』

雪奈は思わず笑った。

「これってスピリチュアル系ってヤツ? やっぱり怪しい!」

手を鎖骨の下にあてるという謎の時間はたっぷり五分続いた。雪奈はお茶を飲み切った。こんな動画を見てぼうっとするしかない自分が情けなくなっていた。やはり買い物に行けばよかった。
馬鹿みたいだ。このどうにもならない気持ちの解決策が、こんなところに転がっているはずがないのに。

『お疲れ様でした』

クレマチスなる女性が言い、目を開けた。その目が、最初より澄んで見えた。
あれ、カラーコンタクトレンズでも入れたかなと雪奈が画面を見つめると、彼女は薔薇のつぼみが花開くように微笑んだ。推定の年齢よりずっと若々しい、少女のように無垢な笑顔をしている。

『この動画を見ている皆さんは、きっと普段、誰にも理解されない頑張りを積み重ねている方だと思います。優しいから、ひとりでどんどんすり減ってしまう方だと思います』

とくんと鼓動が鳴った。魅せられたように、雪奈は画面を凝視する。

『なによりもこれだけは覚えていてほしい。“あなたは悪くない”』

雪奈は薄く唇を開け、気づけばタブレットに真っすぐ向き合っていた。

『あなたは悪くないんです。いいですか。一番手軽にできるのが責任を自分が被り、反省すること。だけどそれを繰り返していたら、あなたは壊れてしまうんです』

熱心な口調だった。今目の前にいる親友が、直接話しかけているような声調だった。

『自分を責めないで。あなたは自分の人生を真摯に生きている。ちっとも悪くないんです。あなたが壊れてしまう前に、あなたの心を守る行動をとってほしい』

雪奈の頬には幾筋も涙がつたっていた。

『あなたは絶対に悪くないんです』

画面の中の女性は柔らかく慈愛に満ちた声で繰り返した。



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