かつて女の子だった人たちへ
俊夫からランチの誘いがあったのは翌日だった。
朝、俊夫はコーヒーを飲みながら言った。

「雪奈、結局あのショップで買い物してないだろ?」

キッチンで朝食の準備をしていた雪奈は振り向き、微妙な笑顔を浮かべた。
ブランドショップで好きなものを買っていいという話だ。俊夫の浮気発覚からひと月ほど経つが、まだ出かけていない。

「今日一緒に行こうよ。昼飯食べて、そのあとにさ」
「でも、忙しいでしょ。大丈夫なの?」

今日は平日だ。経営者といえど、ふらふらしていていいのだろうか。

「今日はゆとりがあるから問題ないよ。夜に出かけると、絆をおふくろに預けなきゃいけない。きみが気を遣うだろう?」

そこまで考えてくれてのランチの誘いなのだ。俊夫なりに必死に埋め合わせをしようとしてくれている。

「ありがとう。嬉しい」

嫌味を言って拒否することもできるが、関係を修復したいのは雪奈も同じ気持ちだ。また、夫婦生活を断り続けている負い目もあって、俊夫が気を利かせているなら従順に受け入れたいという気持ちもある。

「じゃあ、銀座のレストランで。場所送っておく。おしゃれしておいで」
「うん」

戸惑いもあったが、次第に雪奈の心には嬉しさが湧き上がっていた。
交際している時代、十歳年上で会社経営者の俊夫とのスマートなデートはいつも雪奈を喜ばせた。お姫様のような特別扱いに、同年代にはない魅力を感じたのは事実だった。

(私も許せるように努力しなきゃ)

人生は長いのだ。伴侶を恨んで生きていきたくない。一度きりの過ちだった、あれから彼は変わったと、後年語れるくらい仲のいい夫婦に戻ろう。
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