かつて女の子だった人たちへ
どうせ、トラブル解決にバタバタしていて連絡を忘れていたに違いない。だから、こんな時間に慌てて連絡をしてきたのだ。
……もっと嫌な想像をすれば、そもそもトラブル自体が起こっていない可能性もある。単純に雪奈と朝した約束を面倒くさくなったのでは……。

(想像でイライラするのはやめよう)

支払いも俊夫のカードで済んでいる。雪奈ひとりで食事をして帰ることもできた。しかし、食欲はなく雪奈はレストランを出た。レストラン側が厚意で包んでくれたフロマージュブランは絆のおやつにしよう。久しぶりにはいたピンヒールのつま先に痛みを感じながら、ぼんやりとメトロに乗った。

期待した自分が馬鹿だった。
雪奈は気が弱い方ではない。俊夫の浮気発覚時も、はっきりと夫を責めた。おかしいと糾弾した。
しかし、今は家庭を守るために俊夫に対して優しい態度で接している。怒りを押し殺して、必死に笑顔を作っている。夫婦生活を拒否しているのも、負い目に思っている。
そんな自分の努力や感情の動きのすべてが馬鹿らしくなった。雑に扱われていると感じた。

(俊夫と出かけるの、楽しみだった)

若い女性と遊んでいたと知って、まず雪奈は傷ついた。それは若い女性に女として負けたというショックもあったが、やはり一番は夫の愛が横道にそれてしまったことへの悲しみだった。
燃えるような恋心ではないかもしれない。それでも雪奈は俊夫を愛していた。
しかし、俊夫にとって雪奈はその他の愛人と同程度の存在なのだろう。面倒事がないように、関係を維持しておきたい相手。性欲を手近で発散できる相手。

(自分が思う範囲で気遣ってみせて、実際は私がどう考えているかなんて興味もないんだ……)
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