かつて女の子だった人たちへ
「今日は色々お話ししましょう。先日のカウンセリングの件、その後はいかがかしら」
「夫とは再構築中ですが、やっぱり私が受け入れられなくて」

俊夫は最近、雪奈を誘ってこない。夫婦生活は雪奈が落ち着くまで待とうと思ってくれたようだ。それ以外は彼なりに家庭円満を心掛けようとしているのか、休みの日に絆を連れ出してくれたり、雪奈に積極的にコミュニケーションを取ってくる。

「夫の気持ちに応えなければと思うんですが」
「そんなふうに考えなくてもいいの。心に無理をさせてはいけない。ユキナさんの心身の充足をゆっくり待ちましょう」

優しい言葉に心がほぐれる。俊夫に対して拒絶の罪悪感がいつもあった。クレマチスは、雪奈は悪くないと言ってくれる。

「クレマチスさんは……どうしてこの道に入られたんですか? そのヒーリングパートナー?の道に」

受け入れられているという安堵感と、彼女から感じるこちらへの親愛。雪奈は思い切って尋ねてみた。クレマチスのことが知りたいと思った。どうしてそんなに懐深くいられるのだろう。

「私の正式な職業は“治癒者”というの。大地のパワーを身体で受け止め、不足している人にお分けする仕事。そして、このパワーを使うサイクルを広めていくのが使命だと思ってる。きっかけは旅行先のタイ。観光した寺院で師と出会ったのよ」

彼女の語る話は新鮮だった。師との運命的な出会い、そのときの気づき、二度目の旅行で修行を開始し、師から大地のパワーの技法を伝授されるまで……。
自分とそう変わらない年齢でまったく違う世界を歩んできた彼女。
芸能界、夜の世界、きらびやかな都会を雪奈が知っていても、クレマチスのように魂に刻む経験はない。
一方で、これほど純真で優しい人では他人に騙されてしまうのではないかと心配になった。一途に人を救う仕事を使命と考えている。
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