かつて女の子だった人たちへ
スイッチが入ったといえばいいだろうか。雪奈はクレマチスの提唱する世界にどんどんのめり込んでいった。

習った通り、夜明け前に起きだして白湯を飲む。窓辺に胡坐をかき、瞑想の時間を取った。
朝食は一番気を遣うべきと言われたので、オーガニックの食材を選び、なるべく火を通さないで済む調理方法で食卓に並べた。全粒粉のパンやオートミール、ナッツ、季節のフルーツ、生で食べられる野菜。少し値は張るが朝だけだし、朝は絆と雪奈のふたり分で済むため問題なかった。おやつには加熱処理をしないスイーツや、野菜を使ったシートでサンドイッチを作るなど工夫を凝らした。
絆には口に合わないメニューもけっこうあったようだ。
それでも雪奈が『心と体にいいのよ』と説明するとおとなしく食べてくれる。

クレマチスの動画はすべて見たし、ライブ配信も欠かさず視聴した。見られなかったときはアーカイブで確認し、次月の浄化ミーティングも申し込んだ。
今度は夜の部も行けるように、以前使っていたベビーシッターサービスに申し込み、絆を見てもらう予定もたてた。

クレマチスとは個人的にメッセージアプリのIDを交換していたため、連絡を取り合って、個人セッションをしてもらっている。カウンセリング、一緒に瞑想、それから身体のあちこちに手をかざす“治癒”をしてもらう。終わった後は心が穏やかになり、夜はよく眠れる。最初に動画を見たあとのような爽快感だった。

俊夫にはヨガの個人レッスンに通い始めたと出費について説明した。実際に効き目を実感できないと、怪しいと思うだろう。

ここまでやって、雪奈はいまだに百パーセントクレマチスを信用しているわけではなかった。精神世界の話はいまだ理解できないし、思い込みではないかと考えることだってある。素質があると言われても雪奈には大地のパワーは感じられない。
しかし、個人セッション後に身体が楽になっているのは揺るがない事実なのだ。彼女はある種の力があり、メソッドを持っている。そこは尊敬しているし、生活を向上させてくれるなら、自分も学んでいきたい。

そして何より、クレマチスという人に魅力を感じていた。女性的で美人、自分に時間をかけている丁寧な雰囲気がにじんでいて、それでいて善人すぎて心配になってしまう。
友人として、守りたいと感じるような女性だった。
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