かつて女の子だった人たちへ
「ただいまあ」

明るい声とともにぱたぱたと駆け足でリビングにやってくる足音。

「ママ! ただいま! あのね、今日ね!」

寒空の中走ってきたらしい絆は赤い頬で息を切らしていた。何か報告があるようだったが、雪奈の鬼気迫る顔を見て、ぴたっと止まった。

「ママ? どうしたの? 具合悪いの?」
「絆……」

息子の前では暗い顔をしないように心がけてきた。いつも明るくてきれいなママでいたいと思ってきた。それなのに、メンタルがぐちゃぐちゃで笑顔どころか、絆の顔を見た途端涙があふれてきた。

「ママ!?」

駆け寄って抱きついてくる絆。雪奈は洗いすぎて感覚がおかしい手でそっと絆の背に手を回す。まだランドセルも下ろしていない絆を抱きしめる。

「ごめんね。絆、なんでもないの」
「痛いところがある? 僕、病院に連れていくよ。一緒に行ってあげる」
「大丈夫、大丈夫なの」

雪奈はひざまずき、あらためて絆を抱きしめた。

「絆は優しいね。きっと絆はママと魂で繋がってるんだね。前世からの親友、ソウルメイトなんだよ」
「なに……? それ……」

絆が不思議そうな声で尋ねてくる。

「生まれる前から、絆とママはお互いが大事だったってこと。ありがとう、絆。ママのそばにいてくれて」

夫の新たな裏切りに心は千々に乱れる。しかし、雪奈には最愛の息子がいる。誰より優しい魂が寄り添ってくれている。

「うん」

絆がぎゅっと抱きしめ返してきた。

「僕はママの親友。ずっと、ずーっと親友だよ」

その声はひどく優しく、大人びていた。


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