かつて女の子だった人たちへ
担任教師は言いにくそうではあるが、続けて報告する。

「ここ一週間ほど、絆くんはお友達の間で孤立気味でした。仲間外れにされているというより、絆くんが仲の良かった子たちから離れたようで。何度か小さな衝突があったことは他の生徒から聞いています。今日はその喧嘩のあとにひどく興奮して泣いてしまって……お母さまにお迎えをお願いしました」

激しい怒りと同時に、絆がここ数日どれほど心細い想いをしていただろうかと胸が苦しくなった。絆は雪奈の前でけっしてそんな態度を示さなかった。いつも通り宿題をし、いつも通りゲームや動画を楽しんでいた。笑顔だった。

「情報の共有をありがとうございます。私についてそういった噂を流したのは、その子たちの保護者かもしれません。恐れ入りますが、先生の方でも様子を見ていただけますか?」
「もちろんです。個人同士の喧嘩がいじめに発展することのないように指導していきたいと思います」

担任教師に案内されて保健室にいくと、絆はベッドに腰掛けて待っていた。横にはランドセルと体育着の袋。絆はたくさん泣いたようで目の下と鼻の下が赤くなっていたし、顔全体が腫れぼったかった。

「絆……!」

声をかけると、絆はぱっと顔をあげ、それからくしゃくしゃの泣き顔になって雪奈の元へ駆けよってきた。

「ママ!」
「帰ろう。ママと帰ろうね」

雪奈は絆の背を撫で、一生懸命なだめる。絆の身体は熱っぽく、吐息も涙も熱かった。
許せない。絆を傷つけたあの人たちはもう敵だ。絶対に許すものか。
強い怒りに雪奈は震えた。
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