かつて女の子だった人たちへ
(こんな女と遊んでいるから、悪いパワーを引き寄せたんじゃないかしら)

卑しい魂には卑しいパワーがあるのだろう。男にたかる女などに関わるから、俊夫は病を近づけてしまったに違いない。

「迫田の妻です。夫のために救急車を呼んでくれてありがとう。命に別状はないそうです」

雪奈は腕を組み、高圧的に言った。雪奈が威圧しなくても、目の前の女性はおどおどとして、反論する気はないようだった。浮気の証拠はあがっている。逃げた方が問題が大きくなると覚悟したのだろう。その点は評価できる。

「今回の件について慰謝料だなんだと言う気はありません。ですが、もう夫とは会わないでいただきたいです」
「あ、はい。そのつもりで……。本当に、申し訳ありませんでした……」

雪奈は財布から現金を取り出した。ついさっき病院内のATMで下ろしたものだ。封筒にも入れず、そのまま手渡す。

「三十万あります。少ないですが、夫を助けてくれた御礼です」

手切れ金の意味もある。不倫を訴えないばかりか手切れ金も渡してやるのだからありがたく思ってほしいものだ。
彼女はペコペコ頭を下げ、何度も小さな声で謝りながら病院を出て行った。

全部終わると、誰もいないロビーのソファに腰掛け、雪奈は天を仰いだ。病院の天井は無機質でわずかな光を反射して青い。
絆を迎えに行って帰ろう。俊夫はしばらく入院で、明日は義母が病院に駆けつけるからひと騒ぎだ。

「疲れた……」

その声は、誰に聞かれるでもなくロビーに響いた。

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