かつて女の子だった人たちへ
翌日、雪奈は入院の荷物を持って病院へ向かった。昨日の喧嘩と父親の入院から、絆のダメージを考えて今日は休ませた。家で留守番してもらっている。
病室にはもう義母が到着していた。

「は~、朝のラッシュに交じって病院まで来たのよ。大変だったわぁ」

義母はまず自分の苦労を口にする。おそらく、面会開始の10時より早く到着していたのだろう。看護師に迷惑をかけていないといいのだが。

「雪奈! 心配をかけたね!」

俊夫は点滴こそしているものの、上半身をおこしていつもの調子だ。
歩み寄った雪奈をぎゅっと抱きしめてくる。義母の前でのパフォーマンスだろうと、抱きしめ返しながら雪奈は思った。

「もう、痛みはない? 無事でよかったわ」

俊夫はおそらく雪奈の心中をわかっている。浮気の再発覚。相手の女性に連絡を取ったなら、直接やりとりしたことも知っているかもしれない。
それでも雪奈が事を荒立てないなら、知らん顔を通すつもりのようだ。

「本当にごめん。俺の不摂生も原因みたいだし、これからは気を付けて生活するよ。きみや絆を置いて死ねないからね」
「ええ、そうしてね。長生きしてもらわなきゃ困るもの」

すると、義母が雪奈を押しのけるのように俊夫に歩み寄る。いい歳した息子の頭を撫でて言うのだ。

「ああ、俊夫、可哀想に。お母さんがそばにいてやれたらこんなことにならなかったのにねえ」

かちんときた。あからさまに雪奈が健康管理をしていないと言いたげではないか。
しかし、雪奈は必死に怒りを抑えた。ここは病院。相手は義母。何を言っても無駄な人に怒ってもしようがない。
それでも腹が立って仕方なかった。家で食事せず、遅くまで女と遊んでいるのは俊夫だ。

雪奈は一時間も病室に滞在せずに自宅に戻った。絆も体調をくずして休んでいるからと義母の家への立ち寄りをけん制して。
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