かつて女の子だった人たちへ

最終話



義母の怒鳴り声が、のどかなはずの日曜のリビングにこだましている。

「俊夫の稼いだお金で生きているくせに、偉そうなことばかり言って何もしないで、呆れた人ね!」

反論しない雪奈を見て、義母はなおもまくしたてる。

「夫の体調を考えないでこういう出来合いのものばかり食べさせるなんて信じられない。このままじゃ俊夫だけじゃなくて絆ちゃんも病気になっちゃう! あー、可哀想に可哀想に」
「母さん、もうやめなよ」

俊夫が見かねて声をかけるが、自分がピザを頼ませたという弁解はしない。義母はますます声高に言う。

「俊夫、こんな人といても幸せじゃないでしょう。あんたの気持ちはお母さんよくわかるつもりよ。絆ちゃんと一緒にこっちに帰ってきなさいな。その方が……」

その瞬間だ。
それまでリビングに突っ立って、義母の勢いに圧倒されていた絆がいきなり叫び声をあげた。

「あーーーーー! うわーーーーーー! いいいあああーーーーー!」

金切り声だった。聞いたこともないような声を発し、かぶりを振って叫び続ける。怒りに固まっていた雪奈は我に返り、絆に駆け寄った。

「絆? 絆!!」

抱きしめようとすると雪奈の腕から飛び出していき、絆は義母に掴みかかった。

「ママの悪口を言うな!」
「な、なんなの」
「言うな言うな言うな言うな言うなーーーーーーーーー!」

絆は絶叫し、義母の服を引っ張る。俊夫も立ちがあり、雪奈とふたりで義母から絆を引きはがした。絆は壊れたように腕を振り回し、身をよじり泣き叫んでいる。雪奈はその身体を必死に抱きしめた。

「絆ちゃんまでおかしくなって。まったく、とんでもない人に引っかかったもんね」

孫に掴みかかられ、さすがに慄いた様子の義母は、俊夫にそう言い放つとさっさと家を出て行ってしまった。
< 230 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop