かつて女の子だった人たちへ
「ママの神様は、いい神様?」

雪奈は数瞬固まった。

「神様というか……」

大地のパワーもクレマチスの教えも宗教ではない。神を信仰してこの考えなのではない。哲学であり、心の動きであり、精神世界の力なのだ。
しかし、それを絆に理解させるのは難しい気がした。どううまく言っても、子どもにはぴんとこないだろう。

「……うん、ママと絆を守ってくれるいい神様だよ」

迷った結果、雪奈は明るい口調でそう答えた。泣き過ぎてうつろな顔で、絆はうっすら笑った。

「そっかあ……」

パニックが収まったものの、ぼうっとしている絆を、雪奈は部屋に送り届けた。まだ昼過ぎで昼食も摂っていないが、絆はベッドに入り目を閉じた。


(限界だ)

ひとりリビングで雪奈は考えた。手を付けなかったピザを冷蔵庫に片付け、室内をうろうろと歩き回る。

「絆とアジアを回ろうかな」

クレマチスが経験したような修行。雪奈もそういった修行を経験してみたかった。大地のパワーが扱えている自信がないからこそ、本場で修行をし、開眼したい。
以前調べてある。寺に泊まり込んで修行もできるが、近くに宿をとって通える寺院もあるらしい。絆とふたりでそういったところに宿泊しながら、魂を鍛えるのはどうだろう。

(私も絆も、試練が多すぎる。打ち勝てる強い自衛の力を身に着けなきゃ)

自由になる資金はある。義母の言う通り、俊夫の稼いだ金を使って好き勝手してやろう。

(あんな人たちといたら、私も絆もどんどん悪い方向に転がってしまう)

そうと決まれば行動だ。雪奈は寝室からパスポートを取ってきた。二年前にハワイに行ったので、絆の分のパスポートもまだ有効期限内だ。

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