かつて女の子だった人たちへ
ふたり暮らしが始まっても、令美の朝は相変わらず早かった。同棲を始めふた月、今日も朝から身支度を整えている。

自宅と職場の距離は縮まったが、やることは増えた。
極力敬士に素顔を見せなくて済むように、化粧を落とすのは寝る直前か敬士が寝た後にしている。化粧をしている時間が長い分、スキンケアに割く時間が増えた。朝はひとりでじっくり洗面所を使えるわけではないので、早く起きて朝食の準備の前に仕度をする。

家事一切は令美が引き受けた。敬士は上場企業の社員らしく、毎日帰宅が遅い。家事も嫌がりはしないが、マイペースにやりたがるのでいつまでも手を付けない。そうすると気になって令美がやることになる。せっかくの新居を汚くしていたくなかった。

それでもお互い休みの日以外は夕食が別なので楽だった。令美は朝はスムージーだけだし、敬士はなければ何も食べない。
ヘアアイロンで気に入らなかった前髪を直し、スプレーワックスをかけて鏡を見る。綺麗なカールの入ったブラウンの髪、隙のない愛されメイク。今日も完璧だ。
整形を考えたことはない。それなりに整った顔立ちである自負はあるし、美しく見えるように手入れも欠かしていない。しかしいつか必ず衰えはくるだろう。
そのときにメンテナンスができる資金は必要だ。夫となる人の経済力は、生活費や子どもの学費だけでは足りない。人生を豊かにできる分は必要なのである。敬士は見合う金銭を稼いでくれるだろう。なんとしても結婚までこぎつけたいものだ。

(そのためには、もっと敬士と絆を深めなくちゃ)

敬士が令美から離れられないように、もっともっと夢中にさせないといけない。
ヘアサロンの予約、ネイルの予約、睫毛エクステの予約、フェイシャルエステの予約……。大丈夫、それらのための貯金はある。
頬を押さえ、信じるように鏡の中の自分を見つめてから、リビングに戻る。
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