ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
7 『私、失敗した?』
「多恵、どうして泣いているの?」
朝靄の泉で両親が微笑んでいる。
これは夢なのだと、多恵にはわかっていた。なぜなら両親が見つめているのは、泉の畔にしゃがみ込む幼い多恵だったからだ。
「怖い夢を見たの?」
母が訊ねた。多恵は首を振った。
「寂しいのかい?」
父が訊ねた。多恵は首を傾げた。
「大丈夫、僕がここにいるよ」
振り返ると、森は霧散して、靄の中に玲丞の笑顔が現れた。
▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎
「イタタタッ……」
意識を取り戻したとたんに激痛が襲った。
後頭部に手をやると、ソフトボール大のたんこぶができている。体のあちこちにも鈍い痛みがあった。
「大丈夫?」
多恵は不思議そうにあたりに視線を巡らせた。
なぜ、自室のベッドに寝ているのだろう? それも肌襦袢姿で。
「無茶をするんだから」
濡れタオルを額に当て直してくれる手に、多恵は言った。
「なぜ、戻ってきたの?」
「コタ君から電話をもらって。君と、連絡が取れないって」
「コタが? なぜ?」
多恵は頬に手をやった。口の中が切れたのか違和感があって喋りにくい。
「コタ君は……心配だったんだ。昨夜、君の様子がおかしかったから、君が、その……」
「自殺でもすると思った? ……バカなこね……」
やんちゃなふりをして生意気な口をきくくせに、気が優しくて心配性な航太らしい。
そんな航太をすっかり手懐けて、連絡先まで教えていたなんて、玲丞も存外抜け目がない。
それにしても、玲丞はどうやってあの旅館を突き止めたのだろう。黒川との密会は誰にも知られていないはずなのに。
相変わらずよくわからない人だ。
多恵はにわかに目を見開いた。
「私、失敗した?」
多恵は自分の言葉に絶望的な顔をした。
人生最大最悪の恥辱に耐えたのは何のためだったのか。あと少しだったのに。
朝靄の泉で両親が微笑んでいる。
これは夢なのだと、多恵にはわかっていた。なぜなら両親が見つめているのは、泉の畔にしゃがみ込む幼い多恵だったからだ。
「怖い夢を見たの?」
母が訊ねた。多恵は首を振った。
「寂しいのかい?」
父が訊ねた。多恵は首を傾げた。
「大丈夫、僕がここにいるよ」
振り返ると、森は霧散して、靄の中に玲丞の笑顔が現れた。
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「イタタタッ……」
意識を取り戻したとたんに激痛が襲った。
後頭部に手をやると、ソフトボール大のたんこぶができている。体のあちこちにも鈍い痛みがあった。
「大丈夫?」
多恵は不思議そうにあたりに視線を巡らせた。
なぜ、自室のベッドに寝ているのだろう? それも肌襦袢姿で。
「無茶をするんだから」
濡れタオルを額に当て直してくれる手に、多恵は言った。
「なぜ、戻ってきたの?」
「コタ君から電話をもらって。君と、連絡が取れないって」
「コタが? なぜ?」
多恵は頬に手をやった。口の中が切れたのか違和感があって喋りにくい。
「コタ君は……心配だったんだ。昨夜、君の様子がおかしかったから、君が、その……」
「自殺でもすると思った? ……バカなこね……」
やんちゃなふりをして生意気な口をきくくせに、気が優しくて心配性な航太らしい。
そんな航太をすっかり手懐けて、連絡先まで教えていたなんて、玲丞も存外抜け目がない。
それにしても、玲丞はどうやってあの旅館を突き止めたのだろう。黒川との密会は誰にも知られていないはずなのに。
相変わらずよくわからない人だ。
多恵はにわかに目を見開いた。
「私、失敗した?」
多恵は自分の言葉に絶望的な顔をした。
人生最大最悪の恥辱に耐えたのは何のためだったのか。あと少しだったのに。