ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
ポラリスが建つ岬の森は、多恵の所有地だった。
地価としては二束三文だが、それを破格の値段で買い取りたいという業者があった。
数年前からしつこく面談を求めてきていたが、多恵は頑として耳を貸さなかった。
「そのお話は再三お断りしております。先方の開発計画には賛同しかねますので」
二年前、十年ぶりに故郷に戻った多恵は、変わり果てた村の姿に愕然とした。
虫たちののどかな田園も、鳥や動物たちの豊かな森も、魚たちの澄んだ小川も、心優しい住民の姿も、そこにはなかった。川は灰色の大蛇のように枯れ、ただ傷ついた大地が赤い肌を曝《さら》していた。
自然を破壊し、生態系を乱しても、人は人工的な自然を造ろうとする。
ダム建設反対、高速道路建設反対と、自分たちの生活権を主張するばかりの住民運動を、冷めた目で見ていた多恵だったけれど、故郷が開発と言う名の暴力に蹂躙される姿を目の当たりにして、慷慨を感じたのは言うまでもない。
「お聞きしたところによれば、ポラリスのためにすでに目ぼしい不動産は手放され、お祖父様の骨董や、お父様の蔵書までお売りに出されたとか」
嫌らしい言い方をすると、多恵は苦々しい顔をした。
そこまで調べたうえで今日の面談を仕掛けてきたのだ。
しかも今日から世間は盆休み。金策に奔走しようにも、担当者はつかまらない。
「それに、これは幸村さんだけの問題ではないのです。老朽化が進む港町の港湾整備、観光で出遅れた温泉町の活性化、そのためにもIR構想は欠かせません。そのために町村合併は必要不可欠な条件なのです。過疎と高齢化が進むあの村が生き残る、唯一の望みだというのに、佐武村長もさぞ辛いお立場でしょう」
高度成長期に水産加工業で都市化が進んだ港町は、産業の衰退と共に人口流出に歯止めが利かない。
古くは湯治場として栄えていた温泉町は、バブル期の拙速な開発で町づくりに失敗し、すっかり寂れてしまっている。
この二つの町を合併し新市を誕生させ、総合型リゾートによって再生を図る。それが行政の意向だ。
二町に挟まれ今まで見向きもされなかった農村の動向が、合併の成否を握っている。
リゾート法というバブルの落とし子と地方分権政策が、財政難の自治体と企業の思惑を一つにして、住民不在の開発を押し進める。
地価としては二束三文だが、それを破格の値段で買い取りたいという業者があった。
数年前からしつこく面談を求めてきていたが、多恵は頑として耳を貸さなかった。
「そのお話は再三お断りしております。先方の開発計画には賛同しかねますので」
二年前、十年ぶりに故郷に戻った多恵は、変わり果てた村の姿に愕然とした。
虫たちののどかな田園も、鳥や動物たちの豊かな森も、魚たちの澄んだ小川も、心優しい住民の姿も、そこにはなかった。川は灰色の大蛇のように枯れ、ただ傷ついた大地が赤い肌を曝《さら》していた。
自然を破壊し、生態系を乱しても、人は人工的な自然を造ろうとする。
ダム建設反対、高速道路建設反対と、自分たちの生活権を主張するばかりの住民運動を、冷めた目で見ていた多恵だったけれど、故郷が開発と言う名の暴力に蹂躙される姿を目の当たりにして、慷慨を感じたのは言うまでもない。
「お聞きしたところによれば、ポラリスのためにすでに目ぼしい不動産は手放され、お祖父様の骨董や、お父様の蔵書までお売りに出されたとか」
嫌らしい言い方をすると、多恵は苦々しい顔をした。
そこまで調べたうえで今日の面談を仕掛けてきたのだ。
しかも今日から世間は盆休み。金策に奔走しようにも、担当者はつかまらない。
「それに、これは幸村さんだけの問題ではないのです。老朽化が進む港町の港湾整備、観光で出遅れた温泉町の活性化、そのためにもIR構想は欠かせません。そのために町村合併は必要不可欠な条件なのです。過疎と高齢化が進むあの村が生き残る、唯一の望みだというのに、佐武村長もさぞ辛いお立場でしょう」
高度成長期に水産加工業で都市化が進んだ港町は、産業の衰退と共に人口流出に歯止めが利かない。
古くは湯治場として栄えていた温泉町は、バブル期の拙速な開発で町づくりに失敗し、すっかり寂れてしまっている。
この二つの町を合併し新市を誕生させ、総合型リゾートによって再生を図る。それが行政の意向だ。
二町に挟まれ今まで見向きもされなかった農村の動向が、合併の成否を握っている。
リゾート法というバブルの落とし子と地方分権政策が、財政難の自治体と企業の思惑を一つにして、住民不在の開発を押し進める。