ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「人間の都合で商業リゾートを造っても、それが真のリゾートでしょうか? 自然と人間が共存共栄するために、先祖たちが守ってきたカンナビを破壊されて、誰が歓ぶのですか? 垂れ流し的な開発は、必ず後でしっぺ返しを受けます」

この沿岸部に豊かな漁場があるのは、照葉樹の森のおかげだ。落ち葉や腐葉土に蓄えられた栄養分が、ゆっくり海へと流れ込み、プランクトンを育み、魚たちを呼び寄せる。

さらに、遠い山々のミネラルをたっぷり含んだ岬の森の湧泉は、この地に豊穣をもたらしてきた。

古の人々はそれを知っていて、この森を神の依り代〝カンナビ〞と尊称し、崇めてきた。

岬に鉱泉を掘削しホテルを建設した祖父は、原生林の偉大さに気づき、自らの過ちを悔いて森の保護に努めた。
それでも、いずれ人間の我欲に自然が貪られる未来を、祖父は半世紀も前に予見していたのに……。

「新市のカジノ付き複合観光レジャーランド構想が実現すれば、雇用も生まれます。都会に出て行った若者たちも戻ってくるでしょう。周辺の国有地もすでに開発が進み、高速道路建設用地の買収も完了しています。問題はいくつかありましたが、官庁の保養施設もトーエーへの譲渡が認可されました。残っているのは、あの森だけなのです」

「あの森に、それだけの利用価値があるとは思えません」

「海外投資家たちは、森林と鉱泉を今回のプロジェクトの目玉と考えています。それに、ホテルが倒産すれば、あなたが森を所有している意味はない」

「あの森は──」
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