シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「ああ」

 目をぱちくりさせる私の頬を撫でる、優しい皺だらけの手。
 先ほどの何かを愛でるような優しい笑みの意味も、今なら分かる。

「本当は言うつもりなんてなかった。君のお母さんとの約束を破ることになるけれど、許してほしい。キミは、間違いなく姫川家の――私の娘だよ」

 そう言うと、今度は後ろに向き直る。
 幾美家のご夫妻と、慧悟さんがこちらを見ていた。

「幾美様、もしも信じられないというのなら、DNA鑑定でも何でもしましょう。彼女が姫川でも、まだ結婚を認めてはくれませんか?」

 まるで私を背に守るように。

「私は彼女の父親として、彼女に幸せになってほしいと思っています。私自身も、結ばれない恋をして、苦しみながら生きてきました。成長した彼女をオーナーという立場で見守ることしかできない自分に、不甲斐なさも感じていました。だから、どうか。彼女と息子さんとの結婚を、認めて頂けないでしょうか?」

 オーナー――私の父が、ご夫妻に頭を下げる。
 すると、しばらくの沈黙の後。

「決めた。僕は〝姫川家の娘〟と結婚するよ」

 慧悟さんが言う。
 その顔には、笑みが浮かぶ。
 彼がこちらに歩いてくる。
 優しい笑みを浮かべた、私の王子様――。

 目元が涙でにじむ。
 けれど、必死にこらえた。
 私を迎えに来る慧悟さんの笑みを、ずっと脳裏に映していたかった。

 頭の中には、母の顔が浮かんでいた。
『今でも大好き。だから、希幸を産んでよかったって、心から思えるの』

 お母さんの大好きな人は、オーナーだったんだね。
 お母さんもまた、身分差で結ばれなかった一人だったんだね。
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