愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
***

 おかしい。なんだか言いようのない違和感がある。妙な胸騒ぎがする。

 清隆は家へ帰ると同時にそんな不思議な感覚にとらわれた。その嫌な感覚を拭い去りたくて、愛する雅の姿を目に入れようとリビングへ入ってみるが、そこに雅の姿はない。もしかしたら部屋にいるのだろうかと雅の自室のドアをノックしてみるが、何も反応がない。ここにもいないとなるとトイレか風呂かだろうかと確かめに行くが、どちらも電気がついておらず、そこにもいないとわかる。

 家の中のあらゆる場所で「雅」と呼びかけながら、雅を探すが本当にどこにも雅の姿がない。違和感の正体が雅がいないことなのだとわかって、清隆はどうしようもない不安に襲われていく。

 どこかに買い物にでも出かけているのかもしれないと思ってみても、約束をしている今日に限って雅がそれをするとは思えない。何か用事ができてしまって少し家を出ているのかもしれないと思ってみても、清隆に何の連絡もなしにそうするとも思えない。

 どんどん嫌な思考にとらわれていく。雅に何かあったのではないか。もしかしたら事故や事件に巻き込まれてしまったのではないか。そんな大きな不安に飲み込まれそうになる。

 清隆は居ても立っても居られなくて、すぐに雅へと電話をかけた。だが、その電話は繋がる気配がない。何度かけても繋がらない。やはり何かが起きてしまったのではないかという不安が現実味を帯びていく。

 清隆は大きな不安を抱えたまま、次に鳴海へと電話をかけてみた。もしかしたら清隆への連絡を遠慮して、鳴海に何か伝えているかもしれないと思ったのだ。だが、その予想も外れてしまう。鳴海のところにも何も連絡は入っていないと言われてしまった。

 雅へ繋がる手掛かりが掴めなくて、不安はもはや恐怖へと変わっていく。恐怖で勝手に心拍数が上がっていく。耳に響く心臓の音がうるさくてしかたない。

 何でもいいからとにかく雅に繋がる何かを見つけなければと、清隆はもう藁にも縋る思いで誠一郎へと電話をかけた。普通は実家のほうへ連絡を取るのだろうが、雅が過去に受けてきたことを考えれば、その選択だけはない。雅を心から大切に想っているとわかる誠一郎だからこそ頼ろうと思えるのだ。
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