愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 母への怒りでもう今にも気が狂ってしまいそうだ。地獄の底へ突き落してやりたいくらいに憎くてたまらない。そして、清隆は自分自身にも強い怒りの感情を抱いた。

 どうしてもっと雅のことを気にかけてやらなかったのか。なぜ不安そうな雅と真摯に向きあってやらなかったのか。雅のことを守ってやれなかった自分が本当に腹立たしくてならない。

 怒り、悲しみ、悔しさ、情けなさ、いろんな感情が湧いて、清隆は懺悔の言葉と共に涙をこぼした。

『すまない……本当にすまない。幸せにするなんて言いながら、こんなつらい目に合わせてしまうなんて。雅、すまないっ』

 通話の相手は誠一郎だとわかっているが、雅へ謝らずにはいられなかった。

 誠一郎はそんな清隆に思いのほか優しい声音で語りかけてくる。

『姉のこと大事に想ってくれているんですね。その様子だと、やはりあなたは何も知らされていませんでしたか?』
『……ああ。だが、雅の様子がおかしいことには気づいていたんだ。もっとちゃんと話を聞いてやるべきだった。雅を傷つけてしまって本当に申し訳ない』
『……いろいろと言いたいことはありますが、今回の件に関してはあなたが悪いばかりではない。あなたも被害者でしょう。たぶん、うちの父も絡んでいると思います。父が素直に今回のことを受け入れるはずがないんですから。思い返せば今日の父は様子がおかしかったですし……申し訳ありません』

 沈黙が流れる。おそらく二人とも同じようなことを考えているのだろう。自分たちの与り知らぬところで、想像したくもない恐ろしい何かが企てられているのではないかと。
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