愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 時刻は午後七時。雅はハウスキーパーが用意してくれていた夕食を温め、いつものように一人でそれを食す。広いリビングはしーんと静まっており、雅が食事をする音しかしない。ただ黙々と食す。そうしてすべてを食べ終え、自分以外誰もいない空間に「ごちそうさまでした」とこぼせば、その瞬間にリビングのドアがガチャリと開いた。

 こんな時間にそのドアが開くのは初めてのことで雅は動揺する。いったい誰が入ってきたのだろうか。椅子に座ったまま一人びくびくとしていれば、ドアを開けて姿を現したのは清隆であった。

 この家の住人が入ってきただけなのだから、それは当たり前のことなのだが、初めての出来事に雅は驚く。あまりにも驚いてしまって、危うく硬直しかけた雅だが、どこかへ行きそうになっていた思考を慌てて現実へ呼び戻して、清隆に応対した。

「お帰りなさいませ」
「ああ。君か」

 清隆はそれだけ言うとキッチンのほうへ進み、グラスに水を注いで飲みはじめる。

 清隆はすでにスーツを脱いでおり、部屋着に着替えている。まったく気づかなかったが、雅が食事中に帰宅し、自室で着替えていたのだろう。
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