愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 全員顔をそろえての話が落ち着けば、当人同士の会話も必要だろうと、雅と清隆だけがその場に残された。

 父は去り際に雅にだけ視線を寄こし、その目で上手くやれと訴えてきたが、いつもならば委縮してしまう父からのその圧も、すでにより強い圧を感じている今はさほど気にはならなかった。いや、気にする余裕はなかった。

 両親どもが退席すれば、清隆はすぐにその口を開き、雅に話しかけてくる。

「私の言いたいことから話しても構いませんか?」

 雅が「はい」と受け応えれば、清隆はやはり少しの笑みも浮かべないまま淡々と語りだす。

「あなたも承知のことと思いますが、この結婚は政略的なものです。互いを望んでするわけではない。あなたと私の間に愛はありません」

 至極当たり前のことを言いだした清隆に軽く頷いてみせれば、清隆も満足そうに頷く。

「あなたが生活するにあたって、不自由な思いはさせないと約束しましょう。ですが、私はあなたと馴れ合うつもりはありません。最低限の社交には付き合ってもらいますが、会社と家に迷惑をかけない範囲でなら自由に過ごしてもらって構いません。その代わり私にも干渉しないでもらいたい。わかっていただけますか?」

 どれほど厳しいことを言われるのかと思っていたが、清隆が口にしたのは雅にとっては優しい言葉であった。

 黙って夫に従うことこそが妻の役目だと散々父から教育されてきた。すべてを捧げる覚悟をしろと言われていたのだ。雅に自由に過ごす権利を与えるだなんて、この人は見た目ほど恐ろしい人ではないのかもしれない。

「はい。清隆さんの仰ることに従います」

 雅が同意を示せば、清隆は軽く片眉を上げてみせたあとに、ほんの少しだけその口角を上げた。

「話が早くて助かる。あなたから言いたいことは?」
「ありません」
「では、もうここにいる必要はありませんね。我々も出ましょう」
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